美咲は仕事と家事に追われる毎日を送っていた。そんな中、実家の遺品整理という大きな問題がずっと心の奥に引っかかっていた。両親が住んでいた世田谷の一軒家は、静かな住宅街にあり、彼女が幼い頃から慣れ親しんだ場所だった。しかし、両親が亡くなってから数年が経ち、家は時間とともに埃をかぶり、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。
仕事の帰り道、ふと実家の前を通ったとき、美咲は立ち止まった。郵便受けにはチラシが何枚も詰まっており、庭の雑草は伸び放題だった。近所の人が気にしているのは分かっていたが、どうしても踏ん切りがつかない。家に入ると、古びた家具や両親の思い出の品々がそのまま残っている。母の裁縫道具、父の趣味だったラジオ、そして美咲が小学生の頃に書いた作文集。どれもただの物ではなく、思い出が詰まったものだった。
「これを全部処分するなんてできるんだろうか…」
手に取ったアルバムには、両親の若かりし頃の写真が並んでいた。結婚したばかりの頃の母の笑顔。初めて家族で旅行した時の父の照れた表情。見れば見るほど心が締めつけられた。遺品整理をするということは、単に物を片付けるだけでなく、両親との思い出を整理することでもあるのだと痛感した。
それでも、美咲には実家をこのまま放置するわけにはいかない理由があった。固定資産税がかかり続けるし、家が荒れれば近隣に迷惑をかけてしまう。思い出は大切だが、現実的な問題も無視できなかった。
ある日、美咲はポストに入っていた一枚のチラシに目を留めた。シンプルなデザインのそのチラシには、遺品整理のサービスを提供する業者の情報が書かれていた。「心を込めた丁寧な対応」と大きく書かれたキャッチコピーに、美咲は少し心を動かされた。口コミを調べると、対応が良いと評判のようだった。「この業者なら安心できるかもしれない…」
美咲は意を決して、業者に見積もりを依頼した。電話口のスタッフはとても感じがよく、「遺族の気持ちに寄り添う形で作業を進めます」と丁寧に説明してくれた。
しかし、作業当日、家にやって来たのは電話で対応してくれたスタッフではなかった。代わりに現れたのは、言葉の壁がある外国人作業員たちだった。彼らは説明もそこそこに、大量の荷物を無造作にダンボールへと放り込んでいった。母が大切にしていた茶器も、父の愛用していた工具も、まるでゴミのように扱われていた。
美咲は作業員に「もう少し丁寧にやってもらえますか?」と頼んだが、「時間がない」と言わんばかりに手を止めようとしない。心の中で何かが引っかかるのを感じながらも、作業を見守るしかなかった。
数時間後、ようやく片付けが終わった。作業員たちは「終了しました」とだけ言い、そそくさと帰っていった。美咲は家の中を見回し、ひどく後悔した。両親の思い出が詰まった家は、ただの空っぽの空間になってしまった気がした。
そんな時、美咲はふと、本棚の裏にあった封筒がなくなっていることに気づいた。そこには、父がこっそり貯めていた現金が入っていたはずだった。
「まさか…」
胸がざわついたが、証拠はない。業者に問い合わせても、「作業員は何も持ち帰っていません」と言われるだけだった。
その日の夜、美咲は父の遺影を見つめながら涙をこぼした。「ごめんね…もっとちゃんと考えればよかった…」胸の中に後悔が広がっていく。それでも、もうどうしようもなかった。
次の日、美咲は兄に電話をかけた。「やっぱり、自分たちで整理すればよかったかもしれない」と正直な気持ちを打ち明けると、兄は静かにこう言った。
「でもさ、美咲。家はもうなくなったわけじゃない。俺たちの記憶の中に、ちゃんと残ってるだろ?」
その言葉に、美咲はふっと肩の力が抜けた。遺品整理は、ただ物を片付けることではなく、故人の人生を振り返ること。そして、それをどう受け継いでいくかを考える時間なのかもしれない。
両親の家はなくなってしまったけれど、思い出はこれからもずっと心の中に生き続けるのだと、美咲は信じることにした。
自分で向き合う遺品整理がもたらす、後悔しないための選択とは
遺品整理は、単にモノを処分する作業ではなく、故人との思い出と向き合う大切な時間です。美咲のように後悔しないためにも、自分自身でしっかりと準備し、信頼できる方法を選ぶことが大切です。以下に、遺品整理で気をつけたいポイントをまとめました。
- 遺品整理はできる限り自分自身で行うのが最も望ましい
- 残す・捨てる・譲る・売るの4分類を自分で行い、それぞれに適した業者を使う
- 業者に依頼する場合でも、必ず立ち会うのが理想
- 立ち会えないときは、作業前に部屋の様子を動画や写真で記録しておく
- 作業内容や範囲は書面で契約し、終了後に内容の齟齬がないか確認する
- 原則として、外国人作業員を使う業者は避けた方がよい
- 外国人を使う業者は料金が安い反面、盗難などのリスクが高まる可能性がある
- 見積もりに来た人物と作業当日のスタッフが異なる場合が多いため、事前に作業スタッフと顔合わせをしておくことが重要
- 信頼できる遺品整理のために、業者任せにせず、自分の目と判断を信じて進めることが大切
※ストーリーにするため表現等々編集しています。