遺品の整理で出会った、祖母と過ごした日々のかけらたち

遺品整理体験談

長野の山あい、ぽつんとした古民家に移り住んで数ヶ月。
デザインの仕事はリモートだし、薪ストーブの設置計画やDIYに囲まれ、ある意味理想の生活だった。ムカデさえ出なければ。裕太は朝、寝袋の中でその巨大な影を思い出しながら身震いした。

日中は、オンラインで仲間と進めるインディーゲームの制作。世界観づくりに没頭しながら、空いた時間には近所の古道具店をめぐるのがささやかな楽しみだった。レトロゲームのカセットや、味のある引き出し棚。そういうものに囲まれていると、不思議と落ち着いた。

そんな日々の中、母からのLINEが届いた。「ばあちゃんの部屋、早く片付けて」
一言で済むはずもないメッセージだったが、現実は非情だ。
埼玉の越谷、あの団地。子どもの頃に泊まりに行ったきり。距離もあるし、仕事もあるし……と、正直、見て見ぬふりをしていた。ばあちゃんが亡くなった寂しさも、正面からはまだ受け止めきれていなかった。

だが、母の「もう行かないなら遺産放棄していい?」の圧に根負けし、渋々裕太は越谷へ向かった。団地の階段は相変わらず急で、エレベーターもない。重たい空気を引きずりながら、ばあちゃんの部屋の扉を開ける。

埃っぽいにおい、薄暗い窓辺、静けさ。
裕太は、心のどこかで「昭和の家具と布団がぎゅうぎゅうに詰まってるだけだろ」と思っていた。

だが、甘かった。

最初に見つけたのは、1970年代のゲームウォッチ。そこから、ファミコン、スーファミ、NEOGEO、PCエンジン、さらにはMSX、ゲーム&ウオッチの限定モデル。さらに棚の奥からは、ゲーム雑誌の初版本、直筆の攻略ノート、謎の自作ゲームブック……。

「え、ばあちゃん、ガチのゲーマーだったの……?」

目が、いや心が、完全に輝いた。
整理の手を止めてる場合じゃない。ここは宝の山だ。もはや“発掘作業”。手袋をはめ、棚を解体し、ひとつひとつ丁寧に分類しながら、まるでばあちゃんの“好きだった世界”を追体験するように、裕太は部屋に没入していった。

気づけば7日。
仕事の合間、缶コーヒー片手に過ごしたその時間は、ただの片付けではなかった。
ばあちゃんと過ごした記憶が、今この整理の中で、少しずつ、静かに形を変えて心に沁みてくる。

「ばあちゃん、俺がオタクでよかったな。」

そう呟いて、裕太はひとつの引き出しを閉じた。
そこには、黄ばんだ封筒に一言――「ゆうたへ。つづきは、よろしくな。」

その日、彼はばあちゃんの人生のプレイヤーになった。
そして遺品整理というステージに、ちゃんと立ったのであった。



遺品整理の意味に気づいたとき、心が少しやわらかくなる

遺品整理はただの「片付け」ではなく、故人と向き合い、自分の心とも向き合う時間です。どこから手をつければいいのか分からないとしても、ひとつずつ確かめながら進めていくことで、その意味や大切さが見えてきます。


  • 遺品整理は、自身で手を動かすことで故人との時間に向き合える大切な機会となる
  • 残すもの、捨てるもの、譲るもの、売るものを自分の目で仕分けしておくと後悔が少ない
  • 分けたものを整理する段階で、必要な部分だけ業者に依頼するのが無理のない進め方になる